2021年8月3日
東京オリンピックのボランティア活動記録
昨日で私のオリンピックボランティア活動が終わりました。
月末からはパラリンピックのボランティア活動が始まります。
少し長くなりますが、ここで私の担当した作業を備忘録がわりにまとめておこうと思います。
私の配属先はプレスオペレーションです。
この組織は、競技を取材して報道するプレスの人たちがスムースに問題なくお仕事できるように
環境を整備したり補助を行うことを目的としています。プレスとは、記事を書くジャーナリストと
写真を撮るフォトグラファーで構成されます。オリンピックは国際大会ですから、ほとんどのプレスは外国人です。
放映権を持っているテレビやラジオ、あるいは動画撮影を行える組織の担当は我々と別に組織されています。
大会を取材するプレスの人は基本的にどの会場も出入りできるアクレディテーションカードを持っています。
前回までの大会では、とりあえず行きたい会場へ出向いて自由に取材活動をすることができました。
それらの会場で、記者はプレス用の座席を予約したり、フォトグラファーは競技の撮影場所を早い者勝ちで
確保したりします。プレスオペレーションの重要な仕事の一つは、その交通整理をすることです。
ところが今回の大会では、新型コロナウィルス感染防止の観点から、プレス用の座席を予定の半分に
減らしたりフォトグラファーのソーシャルディスタンス確保のため会場へ入場する人数を厳しく制限する
必要が出てきました。そのため、取材を望むプレス向けに事前承認のシステムが導入されました。
取材活動をする予定の人は、目的の競技の日ごとに取材前日までにそのシステムに申請し、
承認のメールを受け取った人だけが競技会場に入場できるシステムです。システムからの返答メールは、
承認(Approved)か、拒否(Decrined)、キャンセルの3種類です。
テレビのコマーシャルでご存じのとおり、今回の大会の入場管理はNECの顔認証システムが導入されています。
この入退場システムは今のところ正しく動作していて、特に問題は起きていません。
(無観客開催になったことでゲートを通る人数がずいぶん減っているので、システムの負荷は設計時より相当軽いと思いますが。。。)
しかしながら、上記のプレス向け事前承認システムは、残念ながら顔認証の入場管理システムとは連携しませんでした。
開催の一年延期や、コロナ禍の世論による直前の方針変更など、いろいろな要素がからんだのでしょう。
なんだか偉い人の失言等が影響したのかもしれませんし。
その結果、入場確認の顔認証ゲートの手前にチェックデスクを設置してプレス関係者を待ち構えて、
事前承認メールを手作業で確認するという手順が追加されました。
その作業はプレスオペレーションのボランティアが担当することになり、私は多少英会話ができましたので、
そこに配置されました。
まぁよくあることですが、こういう直前のシステム変更と手作業による処理の導入ですから、いろいろな不具合がおきて、
運営側の思惑は初日からはずれることになってしまいます。
私が目にした主な出来事を列挙しておきます。
1.エントランスで承認メールが表示できない。(Wifiがないのでインターネットにアクセスできない)
2.承認メールが多すぎて該当会場のメッセージを探すのに時間がかかる。(一人で何十通も承認メールを受けている)
3.拒否されているのに取材に来て、「自国の選手が出ているので取材させろ!」とねじ込んでくる。
4.登録すらしていないのに取材に来る。
理由は、
「同じ会社で登録した人が別な競技会場に行っちゃったんで自分が代わりにきた」とか。
「取材予定の競技が中止になったんで、手近な射撃会場に来てみた」とか。
「何回も試したんだ、でも、システムエラーでログインさえできない! どうしてくれるんだ!」と、いきなり怒りモードとか。
残念ながら、承認システムの運用を無視して例外処理をねじ込んでくるのは、台湾以外の近隣諸国と中南米の国々に多いように感じました。
そういうちょっとめんどくさい対応に加えて、フォトグラファーの責任者は、
「例外の承認を出すにあたって実際に来場しているカメラマンの人数を知りたいので、チェックデスクで確認して
通した実数をカウントしてほしい」などと要求を追加してきましたので、チェックデスクの作業は更に増加しました。
そのうえ、入場ゲートの手前という会場で一番最初にアクセスできる場所ですから、外で働く交通整理の人が
トイレの場所を聞きに来るとか、集合時間に遅れそうな他部署のボランティアの人が行先を尋ねに駆け込んで来るとか、
他会場に急ぐ競技関係者にタクシーの予約を懇願されるとか、もうほとんどインフォメーションデスク化してしまう始末。
それでどうなったかは・・・たぶんご想像のとおりです。
競技開始時間が迫ってきてシャトルバスから大勢の取材陣が降りてくるなり、チェックデスクの前に
人だかりができてしまいました。(密です!)
私たちは承認なしの取材者の例外対応に追われてスーパーバイザーに連絡するトランシーバーを握りっぱなし。
炎天下に待たされている皆さんは、当然、口々に不満を叫びます。
まぁ、そうなりますよね。
世論に押されてプレスの席を制限せざるを得なくなり、取材陣の人数制限をすることにした。
↓
何らかの理由で(予算?納期?)すでに構築されている入退場管理システムの仕様追加はできなかったので、
連携しない独立なシステムを導入せざるを得なかった。
↓
許可の取れない取材陣の圧力に負けてシステムの運用をはずれて例外的な承認を出さざるを得なかった。
(この時点で当初の構想は破綻しています)
↓
成り行き上、システムの運用はやめられないので、ボランティアの人力でカバーした。
午後からは、承認者と拒否者の一覧表をプリントアウトしてもらって、かなり対応を改善することができました。
二日目からは、初日におきた例外処理を手順書にして配布することと、主な英会話を書き起こすことで
初めて配置されるボランティアの方でもいちおうの対応ができるようにしましたので、私自身のデューティーは
ずいぶん楽になりました。また、取材の方たちも慣れてきたので、競技後半の日程ではちゃんと承認システムを使うように
なってきて、担当した会場での混乱はほぼ無くなりました。
ボランティアの連絡はラインワークスで行っているのですが、プレスオペレーションのグループを見ていると、
他会場でもかなり混乱しているようでした。
原因は複数ありますが、根本は入退場システムのフレキシビリティ不足で後付けの仕様変更に対応しなかった
(できなかった?)ことだと思います。
こういう現代の社会において、特にこのような大掛かりなイベントを開催するときには、システムの使い勝手って
仕事をスムースに進めるうえでの要ですよね。
いろんな理由があるのでしょうが、コロナ騒ぎという特殊な状況で、残念ながら我が国は情報システム構築の
お粗末さを露呈することになってしまいました。
私の担当した会場ではボランティアの皆様の臨機応変な対応で乗り切りましたが、本来は最初のシステム構成で
考えておくべきでしたね。
どこの国か忘れましたが欧州の記者のひとりが、我々が手作業で名札と紙のリストを照合する姿を見て
「いったい何世紀の世界だよ」とため息をついていたのが印象的でした。
でも、いいんです。
オリンピックは、最初から最後まで、国の境を超えて全力で戦う選手たちのために開催される大会なのです。
彼らが日ごろ鍛錬してきた技を思う存分発揮できれば、それで良い。
報道を通じて、皆様がその姿を見て感動を覚えるのは、あくまでも余禄にすぎません。
ましてや、我々ボランティアは、縁の下で支える役ですから。
多少の無駄や腑に落ちない点があったにしても、期間中の活動が円滑な運営のために多少でも役立てたのならば
もう大満足でございますよ。